教授挨拶


教授 今井 猛(Takeshi Imai, Ph.D.)

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2017年4月より基礎医学部門、疾患情報研究分野の教授に着任しました。当分野は新設された研究室で、生理学の学部教育を担当しています。

私は2001年に東京大学理学部を卒業後、同理学系研究科にて、坂野仁先生の下で研究者としてのトレーニングを受けました。当時から、我々の脳がどのように構築されるかを知りたい、というのが大きな目標でしたが、大学院時代には、当時大きな謎とされていた嗅神経細胞の軸索投射の問題に取り組みました。2006年に博士号(理学)を取得後も数年間坂野研究室で引き続きこの研究を続け、その分子機構を明らかにすることができました。その後、幸運にも2010年に理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(現多細胞システム形成研究センター、通称理研CDB、神戸市)にてチームリーダーの職を得ることができ、研究室を一から立ち上げることになりました。そこでは、それまでの研究の続きではなく、機能回路レベルの新しいプロジェクトに取り組もうと考えました。神経回路発達を機能面と回路構造の両面から捉えるため、2光子カルシウムイメージングや、組織透明化技術などを取り入れ、嗅球や大脳皮質の発達過程の研究に取り組んできました。7年近く経って、ようやくその成果が実を結びつつあります。

この度、新たな土地である九州大学医学部に研究室を移すことになりました。これまでも、良い仕事は人の成長とともにあるということを経験してきましたので、再び大学で教育に携われることに大きな期待を抱いております。この地で、将来の礎となる人材を育成するとともに、オリジナリティーの高い研究を発信していきたいと考えております。(2017年5月1日)

経歴

昭和53年生まれ
平成9年 長野県立伊那北高校理数科卒
平成13年 東京大学理学部生物化学科卒
平成15年 東京大学大学院理学系研究科修士課程生物化学専攻修了
平成15年-18年 日本学術振興会特別研究員(DC1)
平成18年 東京大学大学院理学系研究科博士課程生物化学専攻修了
平成18年-19年 東京大学大学院理学系研究科 JST・CREST博士研究員
平成19年-21年 東京大学大学院理学系研究科 特任研究員
平成21年4-9月 東京大学大学院理学系研究科 特任助教
平成21年10月-H27年3月 JSTさきがけ「脳神経回路の形成・動作と制御」研究者
平成22年7月-平成30年3月(予定) 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(現 多細胞システム形成研究センター;理研CDB) チームリーダー
平成22年8月-平成29年3月 京都大学大学院生命科学研究科 客員准教授
平成29年4月-現在 九州大学大学院医学研究院教授

今井研での生活

 少数精鋭(!)の研究室ですので、個人プレーを最大限尊重しつつ、こまめにコミュニケーションをとるようにしています。外国人もいる(助教のMarcusは英国籍)のでラボミーティングは英語ですが、日本語でのフォローアップもするようにしています(ラボ内の事務連絡は日英併記)。個人個人が独立して異なるテーマで研究を行っているので、研究ではお互いに協力し合いながら研究を進めることができます。

今井研の1週間
月曜日午前:1:1研究ディスカッション(日本語)。教授とその週の予定・進捗や直面している問題について共有し、ともに解決策を考えます。問題を放置しないため、毎週やります。個人の自由度を尊重するために、ディスカッションは基本的に月曜日の決まった時間に限定しています。
木曜日午前or午後:ラボミーティング(英語)。隔週でジャーナルクラブとプログレスレポートをやっています。最初は大変かもしれませんが、英語を鍛えられます。数ヶ月に1度担当がまわってきます。ジャーナルクラブはブレインストーミングも兼ねています。

定時勤務の人もいるので、平日の朝10時~夕方5時は一応コアタイムになっていますが、それ以外の時間、日々の研究については個人の裁量にまかされています。子育てに忙しい人(私も3児の父、、)、学部講義のある人から大学院生まで、皆事情はそれぞれですし、趣味のある人もいるでしょう。出産、子育てをしながら研究をしている人もいます。各自、最大限の成果を挙げるために自己の管理の下で研究を行っています。

研究が進捗したら研究会や班会議で他の研究室の人たちと集い、そこで発表します(年に数回)。また、国内の学会(日本神経科学会など)で発表をします。仕事がまとまって論文発表できるステージになったら海外の学会で発表をします。発表に向けて、ラボ内で何度も練習します。徹底的にプレゼンスキルを鍛えられます。

飲み会の頻度は九大に来て増えたような気がします(今井研に来れば英語で飲めるようになります)。大学の近くに飲み屋があるのは良いですね。

大学院生に対しては、十分研究に専念できるよう、RA等の形で一定程度の経済的サポートを行っています(現状では、修士課程についてはバイトをしなくて済む程度、博士課程については親からの仕送りがなくても済む程度)。もちろん、学振やその他の奨学金をもらっている学生さんもいます。

今井研では、ご飯やお酒がおいしい福岡の地でともに一流の研究をし、何かを成し遂げたいという人材を全国から募集中です。

教育方針(一流の研究者になるには?)

独立した研究者の育成

 当研究室では独立した研究者の育成を最重要視しています。このため、基本的には技術を習得できたら先輩のお手伝い実験はしないことにしています。学生だからといって球拾いをすることはありません。学生さんでもできるだけ早い段階から独立した研究テーマで研究を進めてもらうことにしています。最初は少し大変かも知れませんが、努力がすべて自分に返ってくるので俄然研究が面白くなってくるはずです(サボればそれももちろん自分に返ってきます)。自分の頭で問題を整理し、解決策を検討し、手を動かすことで、将来を自ら切り拓く力がつくと考えています。結局のところ、どんな問題であっても、最難関の壁は、当事者である自らが試行錯誤して苦悩する中でしか突破できないのです。これは、研究に限ったことではありません。将来何かを成し遂げる為には必ず必要な能力です。
 とはいえ、現代の生命科学では一人の人が何もかもできるわけではありません。時には同僚や共同研究者と協力しながら研究を進める方が効率が良いこともあります。そのためには常に外にアンテナを張って、コミュニケーションをとることも重要です。また、他人に訊いて解決できることはそうした方が良いに決まっています。うちの研究室ではこまめなフォローをし、簡単に解決できる問題は早めに解決できるようにしています。
 

高い山を目指そう。次の山を目指そう。

 研究においては、ゴールを設定した時点で何割か勝負がついていると言っても過言ではありません。低い山にゴールを設定した時点で、それより高い山に登れる可能性はほとんど無いからです。研究を始めて間もない学生は、しばしば、ちょっとやればうまくいきそうなプロジェクトをやってみたい衝動に駆られがちです。しかし、そんなことをやっても、誰も見向きもしないようなことが分かるだけであるか、世の中の誰かがすでにそんなことはやっていて、実験がうまく行き始めたころに他から論文が出てくるか、そんなところがオチです。結局のところは時間の無駄なのです。こんなことが分かったら(できたら)すごい、一体どうなっているのか訳が分からない、そんなことにトライしないと意味がありません。第一、そのようなテーマでないと楽しくないですし。
 更に言えば、現在世の中の人が解きたいと思っていることではなく、さらにその次を見越して取り組むくらいでないと、本当に世界で一番にはなれないのですね。これは本当に難しいですが。
 しかし、高い山を目指すといっても、言うは易し、行うは難しです。闇雲に鉄砲を撃てば良いというものでもありません。宝くじをに賭けたとしても、たいていはハズレくじです。ではどうしたらよいかというと、徹底的に考え抜くしかありません。いろんな情報を仕入れたり、他人と議論したりすることも重要ですが、結局のところはロジックです。論理的に、それもできれば複数のアプローチを使って攻めるしかないのです。時には、大きな問題を小さな問題に分割したり、シンプルな問題に置き換えることも有効です。その過程では、緻密さ、したたかさと同時に、他の人は考えないだろう、という大胆さも必要です。とはいえ、素晴らしいアイデアがそんなにすぐに浮かんだら苦労はしません。うちのラボの人には、いろんなアイデアを常にメモ帳に書き留めるように言っています。自分が魅せられた研究テーマに思いを馳せ、日々湧いてくるいろんなアイデアを書きためていれば、そのネタ帳があるとき突破口となってあなたを救ってくれるかも知れません。(生理学の講義で紹介したレーヴィは、夢で思いついたアイデアを書き留めそびれて後悔し、2度目に夢で同じアイデアを思いついたあとは、即実験にとりかかって成功、ノーベル賞を受賞しました。PCRを発明してノーベル賞を受賞したマリスも、ドライブデート中にPCRのアイデアを思いつき、車を停めてメモに書き留めたそうです。)
 

英語

 学部学生で英語で不自由なくコミュニケーションができる人は、残念ながら極めてまれです。これが日本の英語教育の現実です。原因は明らかです。普段使う必要がないからです。しかしながら、研究者になったら、活躍の場は世界です。英語で論文の読み書きをし、プレゼンや議論をしなくてはなりません(国内の学会ですら、英語が標準です)。英語無しに研究者としてやっていくのはまず不可能です。どうしたらよいのだろう、と思うかも知れません。
 しかしながら、心配することはありません。英会話教室に行く必要も全くありません。私も学部生の時は全く英語が話せませんでした。英語の上達において重要なことは、英語を使わざるを得ない状況に身を置き、普段から英語を使うこと、それだけです。うちの研究室はラボミーティングを英語で行っています。ラボ内のメール連絡も日英併記、お昼ご飯や飲み会の会話も半分くらいは英語です。最初は少し大変かも知れませんが、このような環境でトレーニングを受ければすぐに上達するでしょう。実は研究で使う英語のフレーズやボキャブラリーはかなり限られているのです。それほど難しいことではありません。CD付きのフレーズ集が本屋に売っていますので、そういったものを使って耳から叩き込むのが効果的です(発音は大事!)。
 

Writing・プレゼンテーション

 意外に思われるかも知れませんが、研究者にとって最も重要な能力は「writing能力」ではないか、と思っています。writing能力というのは、読書感想文とか小説とかではなく、論理的な文章を書く能力のことです。英語だとtechnical writingです。
 現実的なことを言えば、いくら大発見をしても、説得力のある文章でその結果を論文にまとめなければ論文は採択してもらえませんし、世の中の人に認めてもらえません。また、すごいアイデアを持っていても、誰もが納得できる形でかみ砕いて申請書を書かなくては奨学金や研究費をもらうことができません。writing能力は研究者にとって死活問題です。
 また、論理的な文章を書くプロセスは、研究を進めるプロセスとも非常によく似ています。サイエンスはロジックに穴があっては成り立ちません。慎重にロジックを積み上げること、logical thinkingでこそ新しい発見につながっていくのです。また、論文を書くときには、考えを整理しながら何度も推敲しているうちに、だんだん考えが洗練されてきて、論文の「コンセプト」や「キーワード」が形作られていくものです。現在教科書に出ているような考え方や用語、モデル図は、いずれも先人たちがこうした苦労を経て生み出してきたものなのです。従って、こうした国語能力は研究者にとって極めて重要です。
 しかしながら、日本の義務教育でやるのはせいぜい読書感想文くらいで、論理的に文章を書くためのトレーニングは全くなされていません。思い返せば、中学高校の国語の授業は、とんでもない悪文を「解読」するような授業ばかりが印象に残っていますが、そんな暇があったら、誰が読んでも間違い無く理解出来るような、論理的かつ説得力のある文章を書く訓練をするべきです。うちのラボでは常々、一段一段階段を踏みしめながら上っていくような文章を書きなさい、と指導しています。とにかく、義務教育では教えてくれないので、うちの研究室ではフェローシップの申請書など、折々に触れて、徹底的にwritingのトレーニングを行っています。小説家と違って、才能は必要ありません。トレーニング次第で上達します。また、研究者にとってはプレゼンテーションも同じくらい重要です。これもうちのラボでは徹底的にトレーニングします。将来役に立つはずです。

学生さんへのメッセージ

やりたいことに没頭しよう。20代が勝負のとき。

 研究を進める上での最大の推進力は情熱です。賢いだけでは研究はできません。実際、ペーパーテストの出来と研究能力にはほとんど相関がないのではないかと思います。自分はこれに賭けたいという研究テーマを自ら見つけて、それにのめり込むことが重要です。この「自ら」というのが大事です。自ら決めることで、頑張れるのです。何とかして次の扉をこじ開けたい、と昼も夜も考え、悩む中からブレイクスルーが生まれるのです。実験はなかなか思うようには行かないものですが、時々うまくいって、しかも思っていたのとは全く違う結果が出てきます。それが研究の醍醐味です。経験上、研究というのは予想していた結果が出てきたら、ある意味では失敗、つまり2流であることがほとんどなのですね。思っていたのと全く異なる結果が出てきた時が、本当の発見です。
 ひとたび研究を始めたら、学生さんであっても全力で当たって欲しいと思います。研究の世界にジュニアの部なんてものはありません。皆同じ土俵の上で戦っているのです。学生だといくら頑張っても最先端に追いつけないんじゃないか、と思われるかも知れませんが、全くそんなことはありません。世の中は常に前に進んでいますから、現在世界の最先端にいたとしても、常に前進しなければ最先端ではいられないのです。逆に、学生でも次の最先端を見越して1,2年頑張れば、最先端に躍り出ることも難しいことではありません。
 実は、学生さんは研究をする上で、非常に有利な位置に立っているのです。頭が柔らかく、自信過剰で、知識が少ないので偏見が少なく(知識があるとかえって新しい発見の邪魔になる)、時間はいくらでもあり、体力もある。よりシニアな研究者の何倍もの情熱と時間を注いで研究できるのです。ですから、学生さんにこそ、ほどほどの結果を目指すのではなく、大きな山を目指して欲しいと思います。ノーベル賞になるような大発見は多くが20代、30代でなされていると言われています。人生は短いです。そして、20代のうちにどこまでいけるか、それでその先の人生の景色は大きく変わってくるといっても過言ではありません。同じ理由から、医学科の学生さんで研究に興味のある方がいれば、臨床に行く前に、まずは研究で腕試ししてみることをお勧めします(九大にはそうした医学科の学生向けに、MD-PhDコースがあります)。放課後や長期休暇などを使って、1,2年生のうちから研究を始めることも可能です。研究を目指したいと思っているのであれば、みなさんのスタートは既に切られています。

一軍でないと、試合に出ないと、勝たないと、楽しくない

 研究も勝負の世界です。野球やサッカーと一緒で、一軍でないと、試合に出ないと、勝たないと、楽しくありません。二番手、三番手になっても、二番煎じの論文を書いても、誰も見向きもしません。ですので、中途半端に頑張っても全く楽しくないのです。やるのであれば全力でやるしかありません。
 研究の世界では、研究成果を論文という形で発表するということが1つの目標です(その過程で特許を取ったりすることもありますが、それはおまけです)。でも、これもたくさん書けば良いというものでもありません。誰も見向きもしない論文を書いたのでは、何のために頑張ったのか分かりません。研究費を提供してくれている納税者に対してだって責任が果たせません。ですので、学生だからほどほどを目指そう、というのは反対です。ただでさえ、何年かすれば、ほとんどの論文は忘れ去られていきます。時間がかかろうとも、教科書に長く残るような仕事を、1つでも2つでもしたいものです。そのための手助けは最大限したいと思っています。ちなみに、私が大学院時代にやった研究成果は、この神経科学分野のバイブル的教科書にも紹介されています。
 研究の世界はフェアです。結果が全てであり、学歴や肩書きも関係なければ、手段も問いません。海外の学会に行って素晴らしい発表をすれば、見ず知らずの日本人に対しても偉い先生が賞賛の言葉をかけてくれます。そして、世界中で最もクリエイティブでクレイジーな人達と友人になることができます。人生の醍醐味と言って良いでしょう。

今後の指針となる哲学を磨く

 すでに述べたように、研究は土方のように働けば良いというものでは全くありません。また、論文も出れば良いというものでもありません。新しい考え方や物の見方、価値を世の中に生み出してくことにこそ本当の価値があります。従って、研究を通して独自の物の見方を培って、世に示していくことが重要です。そのためにも、上に述べたように日々の苦悶やネタ帳が重要です。また、そうしたプロセスを経て醸成されていく哲学が、将来の皆さんの指針にもなるはずです。
 

(以下、執筆中につき、九大の学生さんは研究室に来て下さい)